染色など繊維加工を手がける福井プレス(東大阪市西石切町6)が10月28日、キノコの培地を生産する「きのこラボ」を開設した。
1938(昭和13)年にクリーニング工場として創業した同社。3代目の福井伸社長が実家のクリーニング工場に戻った2003(平成15)に小ロットの染色加工を始め、2010(平成22)年には個人向けの染め直しサービス「染め直し屋」の運営を開始した。
2019年からは、賞味期限切れのコーヒーや焙煎(ばいせん)時に出る薄皮の「チャフ」、ドリップ後のコーヒーのかすを染料として再利用する「珈琲(コーヒー)染め」を開始。その後は、ビール醸造所から出る麦芽や、母の日に売れ残ったカーネーションなど、廃棄する物で染める「廃棄資源染め」で環境に配慮した染色加工に取り組んできた。コーヒー染めなどはアパレルブランドや個人の古着の染め直しなど、受注が増えてきているという。
コーヒー染めや麦芽染めで色素を抽出した後のかすがキノコ栽培の培地となることを知った同社は、近畿大学農学部とともに研究を進め、2年半ほど家庭でキノコの栽培ができるレベルになるまで実証実験を繰り返した。
「コーヒー染めをすることによってキノコの栽培をすることになった。栽培したキノコは食べて、残った菌床は造園業者に持ち込んでバイオコークスになり、最後は灰になり土に還る。循環するサイクルができた。キノコ栽培をすることでいろいろな企業とつながることができ、今まで見えなかった景色が広がった」と福井社長。
一連のサイクルが完成したことから、染めて、食べて、土に還(かえ)るという意味で、廃棄資源染めにより誕生したプロダクトを「染 食 還(せんしょくかん)」ブランドとして販売することになった。同社のネットショップでは現在、コーヒー染めをした枕カバーやエコバッグ、バイオコークスを販売している。
キノコ栽培の環境を整えようと約12坪の「きのこラボ」を工場の近くに作り、クリーンブース、クリーンベンチ、オートクレーブを設置した。1日最大50個の菌床を作ることができるという。現在はヒマラヤヒラタケを栽培しており、植菌してから1~2カ月培養し、一度水に浸けてから1~2週間保湿するとヒマラヤヒラタケが生えてくるという。現在はキノコを栽培するだけでなく、菌床を軽くて丈夫な陶芸の材料としても活用したいとし、ラボ内には菌床を活用したランプシェードなどもある。
きのこラボ担当の新田文乃さんは、染色に興味があって3年前に転職してきたというが、「キノコの情報を得るうちにキノコの魅力にはまっていった。キノコの見た目もかわいくて、髪型もキノコにした。まさかこの仕事をするとは思ってなかった」と笑う。「前職では栄養教諭をやっていたので、地元の学校で菌床を使うSDGsや食育のプログラムを展開できれば。『染 食 還』のプロダクトとしてオリジナル菌床キットの商品化もしたい。菌床作りワークショップは続け、ゆくゆくは菌床陶芸ワークショップもしていきたいので、キノコファンの人に届いてほしい」と話す。
きのこラボは、ワークショップ開催時のみ見学できる。