作家・司馬遼太郎さんの命日の2月12日、「第26回 菜の花忌 シンポジウム」が東大阪市文化創造館(東大阪市御厨南2)で開かれた。
毎年2月12日に東京会場と大阪会場で交互に行う同シンポジウム。コロナ禍で一昨年の大阪会場でのシンポジウムは延期、昨年の東京会場では無観客で開催した。大阪では例年、NHK大阪ホール(大阪市中央区)で開催しているが、企画段階では同ホールが改修工事中の予定だったため、生誕100年を迎える今年は、司馬さんが晩年を過ごし、司馬遼太郎記念館からも近い東大阪市文化創造館で初めて開催し、1150人が来場した。
シンポジウムに先立ち、司馬遼太郎記念財団の上村洋行理事長は「記念館に来てくださる人の話を聞くと、『司馬さんの作品を読み返しているとその都度、新しい示唆を受けることがある』『読み返すたびに司馬さんの作品から今の私たちへのメッセージのように受け取っている』と言われることが大変多い。過去から現在へメッセージが届いているなら、現在から未来へのメッセージとして司馬作品が読まれればと、今回のシンポジウムのテーマを『司馬作品を未来へ』に決めた」と話した。
シンポジウムには、パネリストとして作家の安部龍太郎さん、国際日本文化研究センターの磯田道史教授、作家の門井慶喜さん、作家の木内昇さんが出席。「歴史小説家にとって、先達で超えなければいけない山脈のような存在。司馬さんの作品の良さは読者に何を伝えるか、どう伝えるかの両輪がうまくいっている」(安部さん)、「生きている時間がかぶっているが歴史上の人物のよう。壮大なテーマを分かりやすく書く技術がすごい」(木内さん)、「ほかの歴史小説家はストイックな人物を書くが、司馬さんは人間の弱さも書く」(門井さん)、「100歳くらいの人から年賀状が来たら、正月から司馬さんに会いたかったと思う」(磯田さん)と、それぞれ生誕100年を迎える司馬さんへの思いを語った。
ディスカッションでは、生誕100年を機に昨年行った「好きな司馬作品」アンケートを基に、「街道をゆく43巻だけでも一生かけても書けない。司馬さんに会っていたら、資料収集で支えるとか、司馬作品に出てくるような国を作るために政治家になっていたかも」と安部さん。木内さんは「長いものが読まれない現代に読まれているのがすごい」、門井さんは「坂の上の雲は8巻あるが、8巻読んでも疲れない」と話す。
若い世代に薦めたい作品のテーマでは、安部さんが「人間の奥底にある闇の火花を感じてほしい」、木内さんが「司馬さんは勝っている人が好きな訳じゃない。理念を保ち続けているがひょんなことで人生が変わっていく恐怖を集めた作品」と、短編集「幕末」を挙げる。門井さんは「第三者が読んでも面白いが、受け取った人がうれしいだろうなと思わせる」という「司馬遼太郎からの手紙」、磯田さんは「大村益次郎は、歴史資料を読めば読むほど司馬さんの作品に近づいていく」と「花神」を挙げた。木内さんは「司馬さんは偉人を書いているようだが、司馬さんが書く前はマイナーな人で司馬さんが書くと国民的英雄になる」、門井さんは「風塵抄のやっちゃんは人の深い部分を突いているのにユーモアがある」など、司馬作品の魅力について語り合った。