プレスリリース

【硫黄生成のメカニズムを解明!】世界遺産・知床硫黄山で大量の溶融硫黄を生成する地下構造と生成のしくみ

リリース発行企業:地方独立行政法人大阪市博物館機構

情報提供:

 世界遺産・北海道知床にある知床硫黄山は、大量の溶融硫黄(融解した赤茶色の硫黄)を噴出する世界的にもとても珍しい火山として知られています。1936年の噴火では10万トンを超す硫黄が噴出し、海岸まで大量の硫黄が流れ込みました。
 大阪市立自然史博物館・外来研究員の山本睦徳、京都大学大学院工学研究科の柏谷公希、Brenda Ariesty Kusumasari、多田洋平、小池克明、兵庫県立大学大学院理学研究科の後藤忠徳らの研究グループは、河川水や温泉水の水分子の水素・酸素同位体比などに基づいて知床硫黄山の火口周辺における地下水の循環状態や帯水層構造を明らかにするとともに、硫黄噴出のメカニズムを明らかにしました。本研究成果をまとめた論文は、2026年7月8日に、火山学・地熱学の専門誌である国際学術誌「Journal of Volcanology and Geothermal Research」で公開されました。
<研究のポイント>
・黄色い固体の硫黄は、120℃で融解し赤茶色の液体となり、水のように流れます。この液体の硫黄は「溶融硫黄」と呼ばれます。
・北海道・知床半島に位置する知床硫黄山は、溶融硫黄噴火を起こす世界的に珍しい火山です。1936年の噴火では、11万トンを超える溶融硫黄が噴出しました。
・本研究では、河川水、温泉水などの水素・酸素同位体比、化学組成、火山ガスを使って硫黄が生成していると考えられる火口周辺の帯水層の構造と地下水の循環を解明しました。
・マグマ起源の安山岩水と火山ガスが地下水と混合・溶解することで温泉水となります。その過程で硫黄が生成し、そのときの温度は176℃と推定されました。
・本研究の成果は、他の火山における硫黄鉱床や温泉の生成メカニズムの解明に役立つだけでなく、木星の衛星イオの硫黄噴火や火星で発見された硫黄塊の成因の理解につながることが期待されます。

概要

 知床半島中央部に位置する知床硫黄山は、大量の溶融硫黄を噴出することで知られており、1936年の噴火では11万6000トンという当時の日本の年間消費量に匹敵する液体の硫黄を噴出しました。このような噴火が過去に4回記録されています。他の火山では、噴気孔周辺に火山ガスから昇華した硫黄が付着している様子がしばしば見られますが、知床硫黄山の噴火は特異的であり、溶融硫黄が噴出されます。1936年の噴火では、標高600mの山腹にある1号火口(新噴火口)から溶融硫黄が噴出し、火口沢とカムイワッカ川へと流れ下りました(図1)。この硫黄は、肥料や火薬の原料として日本特殊鉱業により大規模に採掘されました。硫黄の純度はほぼ100%に達し、ほとんど精錬を必要としないほど高純度でした。

図1 1936年 溶融硫黄噴火の際に硫黄で埋まったカムイワッカ川。渡辺・下斗米(1937)北海道地質調査会報告9より引用。

 当研究チームが、溶融硫黄を噴出する1号火口とカムイワッカ川で湧出する温泉水、および周辺の河川水の水素・酸素同位体比を分析することで、火口周辺の地下水の流れと安山岩水(マグマ起源の水)の混合が生じる領域、溶融硫黄の生成プロセスについて下記のとおり解明できました。
 山体上部の標高860m前後で降った雨が帯水層に入り、地下水として流下します。その途中の標高700m付近でマグマ起源の安山岩水が混入します。同時に硫黄を含む二酸化硫黄や硫化水素が地下水に混入して温泉となり、その中で二酸化硫黄と水との反応により硫黄も生成し、温泉は帯水層を流れ下ってカムイワッカ川右岸(北岸)で湧出します。また、安山岩水が帯水層と混入したときの温度は176℃と推定でき、これは硫黄の融点より高いので、硫黄は生成した時点で溶融状態であることがわかりました。現在、カムイワッカ川の温泉水に含まれる安山岩水は11-12%程度ですが、活動期には安山岩水の割合が増え、硫黄が大量に生じる可能性があり、これが1936年の大規模溶融硫黄噴出につながったと考えられます。

研究手法・結果

 知床硫黄山周辺の温泉水や河川水を採取し、水分子を構成する水素と酸素の同位体比を分析しました。同位体比に基づいて、温泉水の源となる雨が降った場所の標高やマグマからの水の混合を知ることができます。今回はこの性質を使って1号火口周辺の地下水の循環状態や帯水層の構造を調べました。
 調査にあたって知床硫黄山のカムイワッカ温泉水と周辺の河川水・湖水など85か所(図2)で水試料を採取し、水素・酸素同位体比と主要イオン濃度の分析を行いました。

図2 水試料採取地点

 水素・酸素同位体比の分析結果を図3に示します。横軸は酸素同位体比δ??Oを表し、右へ行くほど酸素の重い同位体が多くなります。縦軸は水素同位体比δDを表し、上へ行くほど水素の重い同位体が多くなります。知床硫黄山周辺の河川水からこの地域の水素・酸素同位体比の傾向(天水線)を求めました(水色の直線)。この地域の降水起源の河川水(図3水色丸印)の同位体比はこの線の上に載ります。それに対して、カムイワッカ温泉水(図3赤色四角印)の近似線である赤色直線は、安山岩水の水素・酸素同位体比の範囲(赤枠)の中を通過します。グラフ右上の赤丸は、1960年の九重硫黄山噴火時の安山岩水の水素・酸素同位体比を示しています。赤線の上に載る水は、マグマ由来の安山岩水の地下水への混入が影響しています。つまり、天水線上にあった降水(A)が、安山岩水(B)の混入により赤色の線に沿って変化し、温泉水(C)が生成したと考えられます。このグラフから、カムイワッカ温泉水は降水が主な起源ですが、おおよそ11〜12%程度の安山岩水が含まれているということが言えます。

図3 知床硫黄山周辺で採取した水試料の水素・酸素同位体比のデルタダイアグラム。標準海水の水素・酸素同位体比(原点)を基準にして水素同位体比(δD)と酸素同位体比(δ??O)がどれくらい高いか低いかを示します。水色の線はこの地域の降水の同位体比を表す天水線です。赤線は、カムイワッカ温泉水の同位体比の近似線。

 また、カムイワッカ温泉水には多量の硫酸イオンが溶解しており、これは火山ガスに含まれる二酸化硫黄が水と反応して生成したと考えられます。活動期には、この反応によって硫黄が生成する可能性が示されました。
 カムイワッカ温泉水には、安山岩水と硫黄を含む二酸化硫黄などの火山ガスが溶解していますが、我々の先行研究で行った自然電位の探査から、火山ガスの混入は、1号火口の東側斜面で起こっていると考えられます(図4の1号火口右の方に広がる赤塗の領域)。

図4 1号火口周辺の自然電位。自然電位は地熱が上昇している地域で高い値を示します。噴気地帯でもっとも低い自然電位が115.6mVなので、それより電位が高い地域を曲線で囲んで赤く塗っています。つまり、赤塗部がこの地域の火山活動が活発な地域であることを表しています。

 さらに本研究では、この地域の河川水の水素・酸素同位体比の標高効果を使って、カムイワッカ温泉水の大部分を占める降水が降った平均標高を算出しました。各河川水の「水素同位体比とその河川の集水域の平均標高」「酸素同位体比とその河川の集水域の平均標高」をグラフ化しました(図5)。これは水素・酸素同位体比から集水域の標高を知るためのモノサシの役割を果たします。ここで得た関係式(図5)に、カムイワッカ温泉水の安山岩水や火山ガスが混入する前の降水(天水)の水素・酸素同位体比の値(図3のAの座標)を代入することで、カムイワッカ温泉水の大半を占める降水起源の水は標高860m前後で降った雨であることが判明しました。

図5 知床硫黄山周辺の各河川水の「水素同位体比(δD)と集水域の平均標高」および「酸素同位体比(δ??O)と集水域の平均標高」の関係。HδDは水素同位体比、Hδ??Oは酸素同位体比によって算出した集水域の平均標高を表します。

 以上の結果を統合すると、図6に示すような構造が明らかになりました。すなわち、標高860m前後で降った降水が帯水層に入り地下水となって流れ下り、標高700m付近で火山ガス(二酸化硫黄や安山岩水)が地下水に混入し温泉水と硫黄が生成し、温泉水はそのまま帯水層を流れ下りカムイワッカで温泉水として湧出します。活動期に二酸化硫黄の量が増加することで、地下水との反応により硫黄が生成し噴火にいたると考えられます。

図6 本研究で明らかになった1号火口地下模式図。A, B, Cは図3に対応しています。A(標高860m)で降った降水は、帯水層に入って流れ下り、B(標高700m付近)でマグマ起源の安山岩水が混入します。このときに温泉水と硫黄が作られ、温泉水はさらに帯水層を流れてCカムイワッカ川右岸に湧出します。

波及効果

 溶融硫黄が大量に噴出する噴火は世界的に珍しい現象で、地下水と火山ガスが帯水層で反応することで硫黄と温泉水が生成することが判明しました。本研究は、他の火山における硫黄を生成する噴火や硫黄鉱床、温泉の形成の理解につながることが期待されます。 
 惑星科学の分野の進展にも貢献することが見込まれます。木星の衛星イオでは、活発な火山活動が見られ、硫黄や硫黄化合物が噴出していることが確認されています。また火星では、探査ローバーキュリオシティが硫黄塊を発見しております。地球上での硫黄生成を理解することが他の天体での硫黄噴火や硫黄の生成を理解するうえでも役に立つ可能性があります。

今後の予定

 本研究では1号火口周辺の硫黄が作られる帯水層構造が明らかになりましたが、具体的な化学反応はまだ解明できていません。また硫黄の供給源はマグマ起源の火山ガスであると考えられますが、知床硫黄山の山体の下には海底で堆積した地層・海成層があり、海成層にはしばしば生物起源の硫黄が含まれています。知床硫黄山の溶融硫黄には、海成層起源の硫黄が含まれているのか否かの解明が今後の課題です。

論文情報

タイトル:Characterization of the Shiretokoiozan volcano hydrothermal system in Hokkaido, North Japan: Possible source and mechanism of molten sulfur eruptions (北海道・知床硫黄山火山の熱水系の特徴―溶融硫黄の起源と溶融硫黄噴火―)
著者:Mutsunori Yamamoto, Koki Kashiwaya, Brenda A Kusumasari, Yohei Tada, Tada-nori Goto, Katsuaki Koike
掲載誌:Journal of Volcanology and Geothermal Research
DOI: 10.1016/j.jvolgeores.2026.108676

研究論文の内容に関する問い合わせ

山本 睦徳
大阪市立自然史博物館 外来研究員
メール: yamamoto@earthscience.jp TEL: 090-9706-7958

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